最初に聞いたのは、あんまんの話だった。
子どもの頃、肉まんとあんまんがあれば、ひめはあんまんを選ぶことがあったらしい。
「でも味は肉まんのほうが好きなんだよ」
「じゃあ、なんであんまん?」
「ピンクの印がついてるから」
「……あの上の?」
「そう。味的には肉まんが好きだったんだ。でもつい、ってね」
なんだそれ。
好きではないあんまんを、ピンクの印がついているという理由で選ぶ。
まあ、子どもならそういうこともあるのかもしれない。
と思ったら、大人になっても終わっていなかった。
今度はマカロンだった。
深くて明るくて激しいピンク。
ひめは、そのマカロンを何度も食べた。
「そんなにおいしかったの?」
「別に」
「え?」
「色が違ったら一度食べて終わりだったと思う」
おかしい。
どうやら味ではない。
赤いアイシングのかかったドーナツもそうだった。
「あれはもう、食べなきゃ!って感じ」
「食べなきゃ?」
「当たり前じゃん」
「赤いから?」
「うん」
「ああ、料理って味だけじゃなくて、見た目とか色も含めて楽しむものだよね」
「違う!」
「違う?」
「本当に色を食べてるんだ!」
また妙なことを言い始めた。
でも本人は、別に妙なことを言った顔をしていない。
話を聞いていくと、小さい頃から特に強かったのは、普通はその色ではない食べ物だった。
緑色のパスタ。
普通なら白っぽいものが、緑になっている。
肉まんみたいな生地が全部ピンク色でもいい。
シュークリームの皮が緑色でもいい。
月見団子は、もっと分かりやすかった。
「黄色いのが一個でも入ってたら買う」
「一個?」
「うん」
「ほかは白でしょ?」
「普通の色、いらない」
「白いとこは全部捨ててもいい」
そこまでか。
団子への執着ではなさそうだった。
ここまで聞けば、普通はその色ではないものに惹かれるのだと思いたくなる。
よし、分かった。
と思う。
けれど、マカロンが邪魔をする。
マカロンには、そもそも基本の色がない。
ピンクでも黄色でも緑でもいい。
それでも、あの深くて明るくて激しいピンクは特別だった。
「じゃあ、普通と違う色だからってだけでもないんだ」
「そう」
「でも味でもない」
「そう」
「見た目がきれいだからでもない」
「だから言ってるじゃん」
そうだった。
ひめは最初から同じことしか言っていない。
「私の場合、色を食べることがあるのよ」
こっちが勝手に、分かる話にしようとしていただけだった。
それでも、ひとつ分からない。
なんで色を食べるんだ。
本人も知らない。
「色で食べる理由は知らんけどー」
知らないのかよ。
知らないまま、長いこと食べていた。
それから別の話をしていたときだった。
ひめが、ふいに言った。
「養分」
「養分?」
好きより強い。
必要なもの。
エネルギー。
生きる糧。
そんな話をしてから、色のところへ戻ってきた。
色が何かのサインなのかという話にもなった。
けれど、ひめはそこでも止めた。
「うぜえ」
サインなら、その先に何かがある。
色を見て、別の何かを受け取っていることになる。
でも、そうではなかった。
「色そのものが養分」
で、止まる。
ピンクの印。
赤いアイシング。
黄色い団子。
深くて明るくて激しいピンク。
ずっと色を食べていた。
本人は最初から、そう言っていた。