水槽の隅に一匹の金魚がいた。
他の金魚は、人が近づくと「ごはん! ごはん!」って集まるのに、その金魚だけは、人間同士の会話をじーっと聞いていた。
ある日、飼い主が言った。
「この金魚、全然なつかないね」
金魚は心の中で応えた。
「今の『なつく』ってどういう意味?」
すると飼い主は、「ほら、また難しいこと考えてる」と言って笑った。
金魚は思った。
「また聞きたいことが聞けなかった。」
それから何年もたって、金魚は少しずるくなった。
「まあ、この人には説明しても伝わらないか」
そう思う日は、ぷくぷく泡だけ出して泳いでいた。
でも、ある日、水槽の前に変わった人が来た。
その人は餌を入れずに、こう聞いた。
「さっきの泡、どういう意味?」
金魚はびっくりした。
人生で初めて、泡の意味を聞かれたから。
嬉しくなって、一時間くらい泡を出し続けた。
でも、その人は最後に言った。
「……ごめん、やっぱり金魚語はわからん」
金魚は思わず笑ってしまった。
「そこまで付き合ってくれたなら、もう十分」
それ以来、金魚は「わからない」と言う人が好きになった。